【商品番号】9501 【商品名】江川蘭子 【製作者】新青年編集部 【メーカー】博文館 【発行年】1931(S06)05.12 【サイズ】B6 【ページ数】372P 【備考】江戸川乱歩、横溝正史、甲賀三郎、大下宇陀児、夢野久作、森下雨村、箱付き、上製 【状態詳細】箱小イタミ・微小ヤブレ、本体・小口・見返しシミ 【最低落札価格】800,000円
【コメント】 殺された両親の復讐の為暗躍する主人公、江川蘭子の物語が、戦前のミステリをけん引した作家たちによって書き継がれる、ある種のお祭りのような催し。 この、戦前のミステリ界でたびたびおこなわれていた「合作」。そもそもは、スランプに陥っていた乱歩のために、「新青年」編集長だった森下雨森が企画したことがきっかけでした。(その後、戦時体制によりミステリ雑誌がことごとく休刊するまでに、「合作」の試みは幾度も行われることになりました。作者が複数存在するという、近代文学の前提を覆すものとして、文学史的にも興味深い現象と言えます。 当時の乱歩は、スランプを脱し、傑作「陰獣」や「孤島の鬼」を書きあげた直後。今作は、「黄金仮面」、「吸血鬼」と同時期に執筆されており、作家として脂ののった時期にありました。 実際、ときに強烈なフェティシズムを発現する乱歩にすれば、一部のみを書けばよい「合作」は快い環境だったようで、本作の冒頭で描写される、血を飲む乳飲み子のイメージは、乱歩の面目躍如の感があります。 乱歩の後を受ける作家たちはいずれも、黎明期のミステリを支えた人物たち。横溝正史は言うまでもなく、まもなく、探偵小説の在り方をめぐって論争することとなる甲賀三郎と大下宇陀児がいるのも面白い。そして一人異彩を放つ夢野久作の存在。 単行本の装丁を手掛けているのは、竹中英太郎。本作に収録された口絵は8枚。世紀末英国の画家ビアズレーの影響を濃く受けたと思われる象徴主義的な画風で、とりわけサロメ伝説のモチーフが目立ちます。ヨーロッパで流行したこのテーマは、「江川蘭子」の作品世界、それと戦争を目前にした社会の退廃的な空気と調和しており、それ自体、戦前日本のモダニズムを象徴する作品といえるでしょう。 90年前の刊行にもかかわらず、経年による少々のシミを除けば、目立ったイタミやヤケは見当たりません。 「合作」という特殊な事情故、筋書きには行き当たりばったりな面が否めず、文学的な完成度は必ずしも高くありません。しかし、それこそが逆説的に、この本の価値を高めているともいえるのです
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